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情の薄い職場なんてあっかんべーである。キーボードをカタカタ鳴らす指の音と時たま誰かが咳払いをする音、それくらいしか聞こえてこない。向かいの上司とは目も合わない。そんな職場なんて廃れる一方だ。そして、一時期はあれほどまでに私に好意を見せてきた同期も、素知らぬ顔で斜め前の席にいる。これが本当に良くない。心が通った瞬間が確かにあったはずなのに、今はもう知らない人。目も合わないし雑談なんてとてもじゃないができない。その落差で風邪を引きそうなくらい、私も落ち込んだ時期がある。 長ったらしい会議の間ずっと、(エビチリ食べたい)しか考えていなかった。いつか本格エビチリを作ろうと夢見ていたけど、それは今夜だ。そう思った。定時過ぎに気配を殺して退勤しスーパーに向かう。冷凍エビを手に取る。私はいつも料理をしながらお酒を開けるから、そのつまみを…と思い、これまで手に取ったことのないこのチーズを選んだ。変わり映えのない日常をぶった斬るには、本格エビチリと初めて買うおつまみ。聖書にもそう書いてある。 カシュッッという音、缶チューハイの甘ったるいアルコールの香り。チーズはピリ辛で何とも言えないアクセント。あ〜これよこれ。 件の同期と一緒にご飯を食べたこのリビングで私は、私のためだけの乾杯をする。祝杯をあげる。1人では広すぎるリビングを私が発した「カシュッッ」って音だけが独占する。それで良いんだと思う。
